もう何年も前の話だ。
ロードバイクに乗り始めたころ、西神戸の奥の方、神出(かんで)のあたりに、気になるカレー店があった。
どう見ても、街はずれ。そんな場所にカレー店がポツンとあるのが、ちょっと不思議であった。
その名を「カウボーイカレー」と言った。
「言った」と過去形で書いたのは、すでにそのお店は無いから。
そのうちライドで行こう・・と思っているうちに、いつしかそのお店はGoogleMapから消えていた。
「閉店したのか、残念」「やっぱり、行ける時に行っておかないと」「先延ばしにしていたら、アカンなぁ」
・・後悔先に立たず。そう思った。
それから数年経ったある日、GoogleMapでカレー店を調査していると、同じく神出のあたりに「カウボーイカレー Jr.」というお店が出現しているのを目にした。
おや!これは、かつてのカウボーイカレーの後継店に違いない。
そして、とある週末、折りたたみ自転車に乗って、ポタリングの最中に立ち寄った。
ところが、お店には待ち列ができており、驚いた。
こんな辺鄙な場所に、カレーを求めて人が集まってくるのか。こりゃ、たいそうな人気店だぞ。
その時は、ハラが減っていたので、待つことなく、あきらめて立ち去った。捲土重来を期しつつ。
そして時は流れた。
たまたま、このたび平日に休みの日が生じた。
すると、頭に真っ先に浮かんだのは、「カウボーイカレー Jr.」のこと。
平日、しかも開店時間早々に訪問すれば、いくら人気店と言えど、すんなり入店できるに違いない。
そう考えて、11時開店ちょうどに到着するよう計算し、その日の朝、ロードバイクで出発。
さて、お店の住所を「神戸市」と書いたが、実際には西区の奥の奥。三木市との市境付近。町への近さという観点から考えると、「三木市郊外」「三木圏」といったほうがしっくりくる。
さて、明石経由で三木方面を目指し、ペダルを踏むこと2時間。計算通り、開店時間ピッタリにお店に到着。
一度訪れているので、バイクラック完備であることは知っていた。このバイクラックに、ロードをかけたかった。

駐輪後、入店。目論見通り、やはり私がこの日最初の客のようだ。
お店の名前、そして外観から想像はできたが、中のインテリアは、ウッディかつワイルド。西部劇に出てくる酒場を、ポップ&モダンにした印象。
店内は割と広いが、席は4人掛けのテーブルのみ。カウンターや壁付けなどの、一人客用のテーブルは無し。私の様な単騎ライド者は、ランチタイムのような混む時間帯を避けるのが正解だ。
さて、注文するメニューは決まっている。かつての親店舗(?)カウボーイカレー時代からの看板メニューだという「牛カッパカレー」がそれだ。
カッパというのは「皮と脂身の間にある薄い赤身肉」のことらしい。朝からカロリーも使ったので、そいつを大盛でいこう。
しかしフト、メニューブックを見ると、「平日限定メニュー」として、焼きカレーが表紙を飾っている。
今日はたまたま平日に来ることができた。今後こういう機会は少なかろう。平日限定の焼きカレーにすべきか。
心は迷い、千々に乱れる。
しかし、だ。元々は、親店舗に行くつもりが、果たせなかった。ならば、その親店舗から引き継いでいる看板メニューにすべきだろう。
初志貫徹、「牛カッパカレー」の大盛を注文。ちなみに値段は1580円 + 大盛オプション100円(いずれも税抜)。税込だと2千円近くになる。結構な高級カレーだ。この価格で、三木市郊外で人気店になっているのだから、その実力の程が伺える。これは期待できるぞ。
待つことしばし、私の勝手な数年越しの思いをのせて、到着した一皿がこちら。

玉ねぎのピクルス、そして卓上の福神漬けを一気投下。

そして、スプーンで軽く混ぜる。すると、外観以上に、ルーの中に大量のビーフが存在するのが分かった。こいつはすごいぞ。値段だけのことはあるわ。
ビーフとともにご飯をスプーンにすくい、まず一口。
うん、甘辛欧風カレーといった感じ。甘味とうま味が前面に出ている。
甘味が強いと言っても、シックな奥深さを感じる、大人のための甘辛、といった感じ。
欧風カレー、というよりは、一種独特な「洋食」といった感じ。これは確かにウマいわ。
ビーフもやわらかく、時折あじわう脂身はにゅるんと溶ける感じ。このカレーは、もはや肉料理だ。
濃厚なうま味の中に混ざる玉ねぎピクルスの酸味がほどよいアクセント。
これは、じっくり味わいつつ食べるカレーだな。
途中、卓上の辛味スパイスを振りかけて、ちょい辛めに味変。これはこれで、ウマい。
ゆっくり食べ進むうちに、早くも新たな客が一組、また一組と入店してくる。ランチには早い時間、しかも平日なのに。さらに言えば、ほとんどの人は車で来店するほかないロケーションなのに。これはやはり相当な人気店だな。早い時間帯に来てよかった。
心行くまでカレーを堪能。ゆっくり平らげ、お店が混む前に立ち去った。アディオス。
そして、お店の前に停めた愛馬、ならぬロードに乗って、砂塵舞う荒野の道へと私は去っていった。
